所有している不動産を個人名義から法人へ売却するという選択肢は、税金対策や資産管理の面で魅力的な方法の一つです。特に、不動産を長期的に運用したい場合や、事業として活用する場合には、法人名義にすることで得られるメリットがいくつもあります。
しかし、手続きの複雑さや税制上の注意点も無視できません。個人と法人とでは、不動産売買に関する法律や税率が異なり、思わぬ負担が生じる可能性もあります。そのため「本当に法人へ売却するべきか?」という点は慎重に判断する必要があるでしょう。
この記事では、不動産を個人から法人へ売却する際のメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。
個人の不動産を法人に移す方法にはどのようなものがある?

個人が所有する不動産を法人に移転する方法には「売買」「贈与」「現物出資」の3つがあります。以下で、それぞれの移転方法について詳しく解説します。
売買
個人が所有する不動産を法人に売却する方法です。
個人が所有する不動産をその個人が経営する法人が購入するケースは一般的であり、売却価格には明確な基準がないため、自由に設定できます。
ただし、著しく低い価格で売買すると税務署の監査対象となる可能性があり、適正価格との差額が贈与と判断され、贈与税が課されることがあります。そのため、取引は適正価格で行う必要があるでしょう。
また、形式上は通常の売買と変わらないため、個人には譲渡所得税、法人には不動産取得税なども発生します。
贈与
個人が所有する不動産を法人に譲渡する方法です。
この移転方法は、手続きが簡単である反面、贈与税の負担が大きな課題となります。結果的に税負担が大きくなるケースもあるため、慎重に検討する必要があります。
贈与税は、110万円の基礎控除がありますが、不動産は数千万円以上の高額になりやすく、多額の税負担が発生する可能性があります。もし、1億円の不動産を贈与するとなると、税率は55%と最大に達するため、約5,000万円以上の贈与税が課せられることになります。
現物出資
個人が所有する不動産を法人へ出資し、金銭の代わりに資本金として計上する方法です。この手続きを行うことで、不動産の所有権が個人から法人へ移転し、名義変更の登記が可能となります。
現物出資を行う際には、不動産の価値を適正に評価する必要があるため、不動産鑑定士による鑑定評価と税理士の証明書が求められます。税理士については顧問税理士に依頼することが一般的ですが、不動産鑑定士への依頼は別途必要となり、鑑定費用の相場は約30~50万円とされています。
さらに、法人の資本金が増加するため増資の登記手続きも必要です。この登記申請は司法書士に依頼することになりますが、不動産登記と商業登記は異なるため、それぞれの申請費用が発生します。
このように、現物出資を選択する場合は、税理士・不動産鑑定士・司法書士という3つの専門家の関与が必要となり、他の方法に比べても手続きの手間や費用が大きくなる点に注意が必要です。
不動産を個人から法人へ売却する際のメリット・デメリット

不動産を個人から法人へ売却することには、節税効果や経費計上の柔軟性、相続税対策などのメリットが期待できます。しかし、同時に法人住民税の負担や社会保険料の増加、法人維持費用の発生といったデメリットも存在します。これらを総合的に判断することが大切です。
メリット
節税になる
不動産を法人へ売却することで、個人の所得税と法人の法人税の税率差を利用した節税が可能になります。所得税は累進課税制度のため、所得が高いほど税率も高くなりますが、法人税は一定です。不動産所得を法人に移すことで所得税を抑え、結果として税負担を軽減できる可能性があります。
経費の幅が広がる
法人では、個人事業主と比較して経費として計上できる範囲が広くなります。例えば、生命保険料・役員報酬・退職金・給与などが経費として認められる場合があります。これにより、課税対象となる所得を減らし、節税に繋げることが可能です。
また、法人化することで不動産管理に必要な費用(修繕費や管理委託費)なども、経費として計上できるようになります。
相続税対策になる
不動産を法人に移すことで、相続税対策としての効果も期待できます。
個人の場合、不動産は相続財産として評価され、相続税の対象となりますが、法人化することで不動産を法人の資産とし、株式という形で相続することが可能になります。
株式の評価額は、不動産の評価額よりも低くなる場合があり、相続税の負担を軽減できる可能性があります。また、株式の贈与や譲渡を通じて、計画的に資産を移転することも可能です。
デメリット
赤字であっても法人住民税がかかる
法人は、たとえ事業が赤字であっても、法人住民税の均等割を支払う義務があります。個人の場合、所得がなければ住民税は発生しませんが、法人の場合は、事業の収益に関わらず一定の税金を納めなければいけません。
この均等割は、資本金や従業員数に応じて金額が設定されており、最低でも年間7万円程度となります。事業開始初期や収益が不安定な場合には、負担となるでしょう。
社会保険料が増加する
法人化すると、役員や従業員は社会保険に加入する義務が生じます。
これにより、個人事業主の場合と比較して、社会保険料の負担が増加する可能性があります。
また、役員報酬に対しても社会保険料が発生するため、役員報酬を高く設定している場合、社会保険料の負担も大きくなります。社会保険料の増加は、従業員の福利厚生を充実させる一方で、法人運営のコスト増加にも繋がります。
法人の維持費用がかかる
法人を維持するためには、様々な費用がかかります。例えば、税理士や司法書士への報酬・登記費用・決算・申告費用などが挙げられます。これらの費用は、個人事業主と比較して高額になる場合が多く、法人運営における固定費となります。
また、法人設立時の登録免許税や定款認証費用など、初期費用も考慮する必要があるでしょう。
不動産を個人から法人へ売却する際のよくある要因とは?

不動産を個人から法人へ売却する際には、税務上のメリットやデメリットだけでなく、取引手続きや法的な側面にも注意を払う必要があります。
以下では、特に注意すべきポイントをご紹介します。
契約締結日と引渡し日の認識の違い
不動産売買において、個人と法人とでは引渡し日の認識が異なることがあります。個人の場合、原則として引渡し日は、代金決済日や所有権移転登記日とされます。一方、法人の場合は、売買契約締結日を引渡し日とすることも可能です。
この違いにより、事業年度の損益計上時期が変わる可能性があるため、事前に確認しておくことが大切です。
現物出資による資本金増加
不動産を現物出資として法人に提供する場合、資本金が増加します。これにより、法人住民税の均等割額が上昇し、毎年の固定費用が増加する可能性があります。
また、資本金が一定額を超えると、中小企業向けの税制上の優遇措置が受けられなくなる場合もあるため、資本金の増加がもたらす影響を十分に検討する必要があります。
まとめ
今回は、不動産を個人から法人へ売却する際のメリット・デメリットについて解説してきました。
個人が所有する不動産を法人へ移転する方法には、売買・贈与・現物出資の3つがあります。「売買」は売却価格を自由に設定できる一方で、適正価格で取引しなければ贈与とみなされるリスクがあります。
「贈与」は手続きが簡単ですが、贈与税が負担になる場合があります。
「現物出資」は資本金として計上できますが、不動産鑑定士や税理士の関与が必要で、手続きの手間がかかります。
法人に移すメリットとして、節税効果や経費の幅が広がる点、相続税対策などが挙げられます。しかし、法人住民税の負担や社会保険料の増加、法人維持費用などのデメリットもあるため、慎重に判断する必要があります。